· 

帝王切開後の次の出産

帝王切開出産した後の次の出産はどうなると思いますか?

 

帝王切開後の出産は帝王切開しか方法はない思っている方もいれば、

無条件で経腟分娩で産めると思っている方もいます。

 

帝王切開後の出産は方法として

  • 帝王切開
  • 経膣分娩

があります。

 

この帝王切開後に次の出産で経腟分娩に挑戦することを Trial of labor after cesarean delivery(TOLAC)といい、それが成功したらVaginal birth after cesarean delivery(VBAC)といいます。

 

TOLAC における子宮破裂率は 0.2~0.7%と言われています。

TOLAC は予定帝王切開に比べて低い母体死亡率です。(それぞれ 0.004%,0.013%)

TOLAC では予定帝王切開に比べて周産期(妊娠〜分娩〜産後)死亡率がそれぞれ 0.13%と 0.05%、新生児死亡率がそれぞれ 0.11%と0.06%で高いという統計があります。

また母児合併症のリスクは、TOLAC が不成功となった場合、特に高くなります。

一方、帝王切開を複数回行うことは、子宮摘出、輸血などの母体合併症や、その後の妊娠に際して前置胎盤や癒着胎盤の発生を増加させます。

経膣分娩でも帝王切開でも出産というものはリスクがあるんですよね。

大昔は出産する時、何があるかわからないから全財産を家族に預けて出産に臨んだ、遺書を書いて出産に臨んだという話もあるくらいです。

 

そして、どの人もTOLACできるわけではありません。

日本産科婦人科学会の産婦人科診療ガイドラインでは、

  1. 緊急帝王切開および子宮破裂に対する緊急手術が可能である。
  2. 既往帝王切開数が 1 回である。
  3. 既往帝王切開術式が子宮下節横切開で術後経過が良好であった。
  4. 子宮体部筋層まで達する手術既往あるいは子宮破裂の既往がない。

これらの条件を満たしていることを確認することになっています。

 

 

推奨度は低いけれど、子宮下節横切開による 2 回の帝王切開の経験、双子および帝王切開のための麻酔医やスタッフを緊急に確保できない施設における TOLAC についても、リスクが高いことを納得すれば TOLAC が許容されうるとされています。

しかし、日本では多くの出産がクリニックなどの小規模施設で行われているため、必ずしも緊急時の対応が欧米の分娩施設ほど迅速に行えない施設もあることを踏まえて、

  • 帝王切開1回経験の妊婦のみ
  • また緊急手術が可能な施設のみ

TOLACを実施できることとされています。

また、これらの条件を満たしていても、安全性の確保が十分でないと医療者が判断した場合には、TOLAC を提供しなくてもよいとされています。

 

子宮体部に対する手術経験で、古典的帝王切開、

子宮底部横切開による帝王切開、筋層内子宮筋腫核出、子宮外妊娠による手術など、子宮筋層に達する手術経験がある場合は TOLAC を避けたほうがよいとされています。

子宮筋層に及ばない手術の経験は TOLAC の禁忌とはなりません。

また、前回帝王切開が早産あるいは胎盤位置異常(前置胎盤など)であった場合には、子宮下節横切開でないこともあるため、前回帝王切開の術式その他の子宮の手術等の情報を十分に把握したうえで、TOLAC 可能かどうかを慎重に判断するとされています。

 

 

子宮体部の場所、http://www.cczeropro.jp/kenshin/index.html「子宮頸がん講座」より
子宮体部の場所、http://www.cczeropro.jp/kenshin/index.html「子宮頸がん講座」より
http://www.cczeropro.jp/kenshin/index.html「QLIFE」より
http://www.cczeropro.jp/kenshin/index.html「QLIFE」より

 

つまりお母さん自身は、次回TOLACを希望するのであれば、自分自身の帝王切開や以前の婦人科手術がどのように行われたのか知っておく必要があります。

切開の仕方によっては、TOLACできないこともあるのです。

 

そして、TOLAC 時の子宮破裂を事前に予測することは難しいのです。

子宮破裂の徴候として胎児心拍数異常、

異常な疼痛、分娩中の異常出血などがあげられますが、最も頻度が高い徴候は胎児心拍数異常と報告されています。

そのため TOLAC 時には、分娩監視装置による胎児心拍数の連続モニタリングを産まれるまでずっと行います。

TOLAC 中に胎児心拍数異常が出現した場合、厳しく評価して子宮破裂を疑い、緊急帝王切開への切り替えなどを検討します。

 

 


VBACできた後も、油断はできません。

経腟分娩後に、子宮破裂と診断されることがあります。

したがって、VBAC時の重要な注意事項のひとつに経腟分娩成功後 1 時間程度、母の身体を観察し続ける必要があります。

 

このように、日本でのTOLACはガイドラインで示されていますが、設備が整っていてもできるわけではありません。

それは医療者側の人員確保もそうですし、なにより少しでもリスクがあるならリスクが低い方を医療者側も提供したいと思うのです。

そして、ここまでの身体と心と病院の準備が整っていても、妊娠経過の中でTOLACが不可能になることももちろんあります。

 

お母さんの下から産みたい思いも大切ですが、一番はお母さんが健康で、健康なお子さんを手に抱くということに尽きるのではないでしょうか。

そこにVBACの希望を叶えることができれば、+αの喜びが加わる、そんな思いで臨むと良いのかなと思います。

お産はお母さんだけのものではなく、お母さんと赤ちゃんのもの。

赤ちゃんはもうすでに1人の人。

思い通りにいかなくて当然です。(私はなかなかこう思えませんでした。)

 

何も知らずに帝王切開、何も知らずにTOLACではなく、メリットやリスクを理解した上で、お母さん自身が選択できると、100%希望通りでなくても満足のいくお産になるのではないかと思います。